ボイトレの実例第3話
今日もお出かけの最初の乗り物は、畑川原バス停発の清瀬行きバスである。Bincoとの会話をズームアップしてみよう。
B「今日は、いつもと違って混んでるわね」
N「ボイトレなら理想的な息の吸い込み具合だね」
B「えっ、こんなところで発声練習?」
N「脳みそが柔らかければ、いつでも、どこでも声の仕組みは吸収出来るぞ」
B「バスが呼吸器って事?」
N「その通り。息を吸い込む事は、いの1番の準備だからね。但しこの段階で吸い込みすぎる必要はない。ほぼ一杯の混み具合が最初の準備だ」
B「そんな事意識してないけど、バス停のお客さんは自動的に吸い込まれているわけね。この時バス君は脱力を忘れちゃいけないんでしょ」
N「OKその調子。この呼吸器バスの出入口のドアは開閉する必要は無い。柔軟なゴム系素材同士が、センターのスキマを密閉してくれるようなドア扉を想像してみてね。」
B「開閉しないドアにどうやって、お客さんは乗車するの?」
N「この呼吸バスに乗車する人は、身体が息で出来てるから、衣服だけが薄っぺらいシート状になって乗車して行くんだね。車内では元の体にもどるけど、混み具合がかなり増えても息の乗客だから、どんどん詰め込むことは、容易に想像できるよね。」
B「声は息を吐く時に出るから、乗客が下りる時に、ドアのスキマでの摩擦音が、即ち発声そのものなのね。スキマの強弱は混み具合に連動してる様な気がするわ。」
N「そのとおり。発声操作は呼吸バスの混み具合の調整能力そのものなんだよね。」
B「息は吐かないと吸えないから、発声は吐くのが先よね。乗客が下りないと乗り込めないのと同じでしょ」
N「そうそう。ここで少し考えて欲しいのは、後ろ出口ドアの閉じこみ調整を忘れがち!これを忘れると息もれが生じて発声の質を落としてしまう。大多数の人が無意識でやっている筋力での閉じこみはだめだよね。Bincoもこの部分が未完成なので裏声のようなハイトーンに苦労してるよね。腹式呼吸の質を高めると、徐々にハイトーンが守備範囲に入ってくるから、焦らない、焦らない!」
B「そうなのよ。今一、腹式呼吸をつかみ切れないのよ。」
N「じゃあ、ここでバスに例えて復習してみよう。バスの運転手側にある、前ドアが“のどの声帯”だとすると車体の中間にある後ろドアは、“おへそ”に相当するよね。
前ドアを一切使用せず後ろドア“おへそ”だけで、呼吸の癖を付けてみよう。
おへそで息を吸えばお腹は膨らみ、息を吐けばお腹は凹むよね。これが腹式呼吸の第一歩。
こんな簡単な事が、出来てない人が殆どなんだね。どうしてもバスの前ドアだけを使って乗降しようとしてしまうんだよね」
B「という事は、後ろドアから降りた時が、発声の瞬間ね。その方が脱力し易いし、声の力強さが出易いって事なのね。」
N「今の段階ならそれが正しい。もっと言うなら、息のパワーを腹部に集まっている筋肉の応援で、増幅してやっていると考えてもいいかな。」
B「あら、もう清瀬駅に着いちゃったわ。運転手さんに腹式呼吸を説明して、後ろから降ろしてもらおうかしら。」
N「おいおいやめとけ。運転手さんは西武バスの人なんだから。声部にこだわるお客様は、当社バスをかってに呼吸バスに改造しないで下さいって言われるに決まってるだろ。」