ボイトレ山9合目キャンプ第7話

ボイトレ山9合目キャンプ第7

 

 9合目の高度では当然風は強くなる。

 

 この流れる風は、岩の中・樹木の中・水の中・・・をかすめて行くだけで内側には入れない。

 

 でも風は、わずかのスキマがあれば入り込んで来れる。

 ボイトレの難解さはこの隙間風を捕らえるセンサーが、身体の中に無いことにあるのさ。

 隙間風を想像力でしかキャッチ出来ないため、声の出来栄えを確認するにはボイスレコーダーで聞いてみるしかないんだ。

 

では9合目の隙間風を手探りしながら登頂を進めてみよう。

 

N「身体の胸部は、肺と同居しているのは肋骨しかないので、隙間風の発生しにくい環境にあるからボイトレではほぼノータッチでも構わない」

 

B「腹部は筋肉が充満しているから隙間風出来やすそうね。この隙間風をコントロールするのが腹式呼吸って事なのね」

 

N「発声は息の動きだけで行うのが大前提だから、腹部筋肉はリキミの影響を受けないように、ほぼ単なる肉の塊となって脱力自然体になり切る事が重要となるよね。9合目のうちに完成させておいてね」

 

B「料理前の大きな生肉の塊に息を吐きかけると生肉はユラユラ揺れるのよね。このユラユラ感でおなかを構えておけば、力まなくてよさそうね」

 

N「なかなか主婦ぽくって、いいんじゃないか。息が割れ目の中を移動する時、当然筋肉は細かく揺れる。この現象が声帯で起これば声に変身するよね。この時スキマが狭い程高いキーに変化する」

 

B「このスキマを細くするためには、息を吸えばいいのよね。息を吸う重要性少し解かって来てはいるけど、正しい息の吸い方が今一解りにくいわね」

 

N「腹式呼吸では背骨をマイクロチューブにみたて、尾骶骨辺りの残留気体を吸い上げてやる。

すると一瞬真空状態となりまわりの筋肉はぎゅっと真空部に吸い寄せられて、息の出口を急速に閉じることで極めて狭いスキマとなってキーの高い声が誕生する。この時、尾骶骨周りの筋肉群は圧縮され窮屈感が出るはずだよね」

 

B「この窮屈感は脱力の証とみていいのよね。9合目の通行手形になる貴重品と思うべきね。リキミ「0」の解放感!次の誕生日のご褒美に間に合わせるわ」

 

N「ボイトレの本質は、息により生肉を振動させる事だから吐いても吸っても構わないけど、この生肉のスキマを筋力で閉じたり、スキマを開いたりするのが最悪のケースだよね。

ボイトレをやらない人は、筋肉で声を創ろうとするするケースが大半だよね。

息だけで自由自在に生肉を動かせるような心身状態に近づく努力が9合目の試練だからね」

 

B「以前勤めていた保険会社の下りエレベーターのなかで一瞬ふわーっとなって無重力になった事を思い出したわ。無意識に完全脱力状態になっていた訳ね」

 

N「この歳になって、無くしかけた脱力術を良く思い出してくれたね。重力の束縛からは取り合えず逃げきってて欲しい。

次の9合目キャンプでは強い風を受けて宙に舞うパラグライダーを操る浮遊感が待っているからな」