ボイトレ山9合目キャンプ第9話

ボイトレ山9合目キャンプ第9

 

 9合目の空気感を感じ始めたら少し別角度から見つめなおしてみよう。

 自然界で圧倒的に多いのは、1+1=2(一対)、と言う算数だよね。例えば動物は、目・鼻・耳・肺・手足・・・全て一対で身体は形成されている。ということは声を作る声帯も左右一対の筋肉片で成り立っている(三つ目の動物はお目にかかった事が無い)。

 ボイトレ山ではこの事を無視して頂上へ到達はできないんだ。のどにある声帯筋の代わりに、左右2つの腹筋・背筋・殿筋を声帯筋の代用として操作する事で、発声は繊細さ・豊かさ・安定感・心情感・リズム感・・・等、様々な変化に対応する事が可能となる。

 さあ、頂上が迫っているぞ。

 

N2つが一対になって音を出すもので思いつく物を言って見な」

 

B「カスタネット・拍子木・シンバル・拍手・・・等かな~。

 

N「その中で発声に1番近いのは当然、拍手だよね。手の筋力で気体を急激に圧縮して、音を生み出している。この仕組みはボイトレと変わらない。ボイトレと違うのは手の筋肉が主役だという事だよね。この手の筋肉の代わりに息が主役となれば立派なボイトレ発声だよね」

 

B「拍手もやり方によっては空気感の音が出る事あるわよね。空気を閉じ込めるように叩くとパチパチからヴォワンヴォワンに代わるわね。」

 

N「手の内部の空気を密閉しようとする極めてささいな努力で拍手をしてみると、音の響きが簡単によくなるぞ。

ボイトレの大きなヒントになるから忘れないでね。

空気側にしっかり寄り添う気持ちだけでも音質はとても豊かになるから」

 

B「なるほどね。同じことを腹式呼吸で対応すれば腹式拍手の完成ね。筋肉を使っちゃいけないとなると、パズルを解く難しさに突き当たるわね」

 

N「拍手する時、手を動かさない合掌の状態で手を閉じ、手のひら面だけを微妙に圧着力を変化させると、わずかに「ぶちゅぶちゅ」と言う感じの音が出るよね。この音がとても発声に近い感じが出ていると思わないか?」

 

B「でも、この時も手の力を使っているわよね。この時の手の力の代わりに、息を吹き込んでやって見ると声帯発生に近づきそうかな?」

 

N「そうだよね。但し、息の吹込み・吸いだしは両手のスキマだけではなく、両手の筋肉細胞を膨らませたり、収縮させたりするよね。

この様に、スキマ側と筋肉側との連係動作で音の変化を操作する微妙なコントロールが必要になってくるので、ボイトレ山9合目の難しさを理解しながら楽しんで欲しい」

 

B「そんな事を、のどの声帯部分だけで操作するのは、とても厄介ね。だからその操作をそっくり腹部の筋肉の助けを借りて腹式呼吸で操作する訳ね。腹筋君も息の力で動かされているという事なんだ」  

                            

N「腹式呼吸の対象となる腹筋・背筋・殿筋は息の流れによる、わずかの圧力に揺らいでくれる柔軟さが大前提だ。

 脱力して生肉状態にしてしまう努力が必要となってくる訳だよね。この辺りはクリアー出来てるかな?何度でも思い起こす癖を付けておくんだぞ」

 

B「私、腹部だけで呼吸するのって、まだ良く分かってない気がするのよね。大雑把に捕えてはいるんだけど」

 

N「だよね。腹部の肉の塊に何となく息を当てて、何となく腹式呼吸らしき事をやっている感じだと思うよ。Bincoの場合、へそから下だけに絞った「脚を含めた下半身呼吸」にこだわるといいかも。

このボヤ~っとした腹式呼吸を完全に理解出来れば頂上の社(やしろ)が目に入って来るからね」

 

B「山頂に社があるなんて知ら無かったわ!

もう少しで厳かな神霊の空気に包まれるのね。山岳を流れる水を口にした時、思いっきり清々しさを感じたけど、山頂の空気はさらに想像を超えた清らかさに浸れるのね」

 

N「ボイトレの達成感はそんな感じかも知れないぞ。Bincoの歳でボイトレ山の社を拝めたとしたら大快挙だからな。

4月末にやってくる89歳の誕生日までに最後の踏ん張りどころだぞ。次回で9合目キャンプの締めくくりを予定してるから楽しみにね」